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売上が伸びているのに苦しい
|増加運転資金の求め方

企経 企業経財 編集部 公開 2026.09.04 更新 2026.08.06 読了 約8分
目次
  1. 伸びているのに苦しくなる理由
  2. 増える額を「月商の何か月分」で出す
  3. 自社の回転期間を、平均と並べてみる
  4. 正常運転資金は、本来は短期で回すもの
  5. 伸ばす前に、金融機関へ何を持っていくか
  6. 調達と並行して、必要額そのものを削る
  7. まとめ

注文は増えている。売上も前年を上回っている。それなのに、資金繰りは去年より苦しい——。この相談は、業績が悪い会社からではなく、伸びている会社から持ち込まれます。原因もはっきりしていて、売上が伸びれば、それを支えるために立て替える金額も一緒に増えていくからです。

問題は、その「増える分」がいくらなのかを、多くの会社が数字で持っていないことです。感覚で「少し足りない」と感じた時点では、もう手当ての時期を過ぎています。この記事では、増える額を月数で出す方法と、伸ばす前に動くための具体的な段取りを整理します。

伸びているのに苦しくなる理由

取引の流れを時間の順に並べると、構造が見えます。仕入れる → 在庫として持つ → 納品する → 請求する → 入金される。お金が出ていくのは最初で、入ってくるのは最後です。

売上が1.5倍になれば、仕入れも在庫も1.5倍に近づきます。ところが入金は、これまでどおり1〜2か月遅れてやってきます。成長するほど、立て替えている金額そのものが膨らんでいく。この、成長にともなって追加で必要になる資金を増加運転資金と呼びます。赤字が原因ではなく、伸びていること自体が原因で必要になるお金です。

やっかいなのは、この苦しさが決算書の見た目には現れにくいことです。売上は伸び、利益も出ている。それでも預金だけが減っていく。中小企業庁の2026年版小規模企業白書では、資金繰りに余裕がないと回答した事業者が約6割にのぼる一方、資金繰り計画を策定している事業者は約2割にとどまると報告されています。苦しさを感じている数と、それを数字で管理している数のあいだに、大きな開きがあります。

増える額を「月商の何か月分」で出す

まず、いまの運転資金がいくら寝ているかを確かめます。決算書から次の引き算で出ます。

いま必要な運転資金(年商1億2,000万円・月商1,000万円の会社の例)
売掛金・受取手形+1,900万円
棚卸資産(在庫)+1,100万円
買掛金・支払手形▲1,300万円
いま必要な運転資金1,700万円
数字は仕組みを説明するためのイメージです。実際の金額は会社ごとに異なります。

ここで止めずに、月商で割ります。1,700万円 ÷ 月商1,000万円=1.7か月分。これが、この会社が売上の外に置いている「立て替えの厚み」です。

月数にしておくと、伸びたあとの必要額がそのまま出せます。年商が1億8,000万円(月商1,500万円)まで伸びるなら、必要な運転資金は 1,500万円 × 1.7か月=2,550万円。いまの1,700万円との差、850万円が追加で要る金額です。

金額のまま「1,700万円が2,550万円になる」と考えるより、月数で持っておくほうが実務では使えます。月商がいくらになっても、掛け算一回で必要額が出るからです。取引条件が変わらないかぎり、この月数は大きくは動きません。

ポイント:この計算は、取引条件が変わらないことを前提にしています。新しく取引を始める相手の支払サイトが既存より長い場合や、受注に備えて在庫を厚く持つ場合は、月数そのものが上がります。伸びる相手先が決まっているなら、その相手の支払条件を先に確認してから計算し直してください。

自社の回転期間を、平均と並べてみる

出した月数が厚いのか薄いのかは、単独では判断できません。比べる相手として使えるのが、財務省の法人企業統計調査です。令和6年度の数値では、回転期間は次のようになっています。

回転期間の平均(財務省「法人企業統計調査」令和6年度・単位は月)
売上債権全産業1.93、製造業2.26、非製造業1.80。売ってから現金になるまでの厚み。
棚卸資産全産業1.12、製造業1.64、非製造業0.92。仕入れてから売れるまでの厚み。
買入債務全産業1.33、製造業1.52、非製造業1.26。仕入れてから払うまでの猶予。
統計上の名称は「買入債務」です。全産業の数値は金融業・保険業を除くベース。業種をさらに細かく分けた公表値はありません。あくまで大づかみな目安として使ってください。

全産業の平均を先ほどの式に当てはめると、1.93+1.12−1.33=1.72か月。製造業なら2.26+1.64−1.52=2.38か月、非製造業なら1.80+0.92−1.26=1.46か月です。

自社の月数がこれより厚ければ、売掛が長いのか在庫が重いのか、内訳のどこが平均から離れているかを見ます。合計だけを比べても打ち手は出ません。三つの要素に分けて、どれが平均より1か月長いのかを特定する——ここまでやって、はじめて話が具体になります。

同じ小規模企業白書には、貸借対照表を経営に活用している事業者は資金繰りに余裕があるとの回答が計52.5%、活用していない事業者では37.0%という差も示されています。決算書を「税務署に出すもの」から「回転期間を出すもの」に位置づけ直すだけで、見えるものが変わります。

正常運転資金は、本来は短期で回すもの

ここまでで出した運転資金のうち、通常の営業に必要な範囲のものを正常運転資金と呼びます。この部分の借り方について、公的な考え方が示されていた時期があります。

金融庁の「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕」の事例20では、正常運転資金について無担保・無保証の短期融資(1年以内)で応需し、書替え時にその継続の是非を判断することは、目利き力発揮の一手法となり得るという趣旨が示されていました。あわせて、書換えが継続している手形貸付であっても、いわゆる正常運転資金については貸出条件緩和債権には該当しないという整理も置かれていました。

このマニュアル自体は2019年12月18日に廃止されています。ただし、廃止は「この考え方が誤りだった」という意味ではなく、一律の検査基準をやめて金融機関ごとの判断に委ねる方向への転換でした。かつて金融庁がこう位置づけていた、そして廃止後もこの考え方が否定されたわけではない——この温度感で理解しておくのが正確です。

実務上、何が変わるか。運転資金を毎月元金返済のある証書貸付で借りると、返した分だけまた足りなくなるという循環に入ります。売上が伸びているあいだ、正常運転資金は減りません。減らないものを毎月返せば、その返済原資は別のところから持ってくることになります。

短期での調達を希望するなら、担当者に「正常運転資金の範囲なので短期で回したい」と伝えるだけでは足りません。回転期間で計算した根拠と、その額が営業のために必要であることの説明を添えてはじめて、検討の土台に乗ります。短期にできるかどうかは金融機関の方針や取引状況によりますが、少なくとも、話として通じる形にはなります。

伸ばす前に、金融機関へ何を持っていくか

増加運転資金でいちばん厄介なのは、必要になるのが売上の増えた「あと」ではなく「先」だという点です。仕入れは先、入金は後。順番がそうである以上、資金は伸びる前に用意しておくしかありません。

そしてここが、苦しくなってから借りに行くのと決定的に違うところです。「これから伸びるので、その分の運転資金を」という相談は、金融機関にとって説明のつきやすい前向きな資金需要にあたります。逆に伸びきってから足りないと相談に行くと、同じ金額でも「資金が回らなくなった会社」として扱われます。

1

回転期間の計算過程を、そのまま1枚にする

売上債権・棚卸資産・買入債務の三つの残高と、それぞれの月数。そして伸びたあとの月商に掛け直した必要額と差額。この計算過程を見せることが、金額の根拠になります。「運転資金として」だけでは、なぜその額なのかが説明できません。

2

伸びる根拠を、受注側の資料で示す

見込みではなく、注文書、内示、契約書、取引条件の書面。相手先の支払サイトが分かるものがあれば併せて出します。売上計画だけを持っていくのと、受注の裏づけを添えるのとでは、話の進み方が変わります。

3

入金までの穴が見える資金繰り表を添える

仕入れの支払いが先に立ち、入金が後から来る。その谷がいつ、いくらの深さで来るのかを月次で並べます。借入額の妥当性は、この谷の深さで裏づけられます。

公的な選択肢も並行して見ておきます。日本政策金融公庫の一般貸付は、運転資金の返済期間が7年以内(うち据置期間1年以内)、融資限度額は4,800万円という枠組みです。民間の金融機関とは判断の枠組みが異なるため、伸びる局面で二本立てにしておく意味があります。

調達と並行して、必要額そのものを削る

調達だけでなく、必要な運転資金そのものを小さくする方向も同時に進めます。式に出てくる三つの要素に、それぞれ手があります。

ただし、改善だけで賄いきれる範囲には限りがあります。成長の速度が速いほど、取引条件の調整では追いつかなくなる。回転期間を1か月縮めるのに要する時間と、売上が1.5倍になるまでの時間を比べれば、どちらが速いかは明らかです。調達と改善は、どちらか一方ではなく両輪で進めるものと考えておくのが現実的です。

まとめ

売上が伸びているのに苦しいのは、経営がうまくいっていないからではありません。成長そのものが資金を必要とするという構造によるものです。まずは直近の決算書を開いて、三つの残高を月商で割ってみてください。自社の月数が分かった時点で、次に借りる額の根拠は半分できています。

編集後記

「売上が伸びているのに資金繰りが厳しい」この言葉非常に多く聞きます。
大きな案件が増えてその分仕入れや外注費等の先出の費用が増加しております。俗にいう黒字倒産の多くはこの影響により資金ショートしてしまうことが最も多い理由となっております。
増収してるなら融資を受ければいいじゃんと思う方が多いと思いますが、多くの経営者は資金繰りを把握しておらず、資金が厳しくなったタイミングで初めて相談に行きます。基本的に資金ショートしそうな会社に対しての融資はネガティブです。現在の状況になる前に資金計画は組んでいなかったのか、もしくは一時の増収で継続性はあるものなかが全く見えてこないからです。
大幅な増収増益傾向にあるから融資は問題ないだろうと思う人も多いですが、逆で金融機関としては今後も継続して売上利益を確保していく見通しが立っているのかを非常に重視します。
増収増益だからと安易に考えず、好調の時もただ突っ走るのでなくしっかりと今後の計画も立てていくと安全性が高くなるでしょう。

— 編集部
伸びる前の資金の手当てを、決算書の数字から一緒に組み立てます。
本記事は「企業経財」(運営:ネイビーパートナーズ株式会社)がお届けしています。
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※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の資金繰りや融資の結果を保証するものではありません。記載の数値例は仕組みを説明するためのものであり、実際の必要額は業種・取引条件・規模により大きく異なります。制度や統計の内容は改定されることがあります。具体的なご判断は、取引金融機関および顧問税理士等の専門家にご確認ください。
【参考】財務省「法人企業統計調査」令和6年度、中小企業庁「2026年版小規模企業白書」、金融庁「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕」(2019年12月18日廃止)、日本政策金融公庫「一般貸付」