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役員貸付金があると
|制度の入口で止まる

企経 企業経財 編集部 公開 2026.08.24 更新 2026.08.07 読了 約9分
目次
  1. 令和八年から、利率が上がっている
  2. 放棄すると、損金にならないうえに源泉徴収が要る
  3. 要件は「多いか少ないか」ではなく「あるかないか」
  4. 勘定科目を変えても、逃げられない
  5. 社長が亡くなっても、消えない
  6. 減らすときの順番
  7. まとめ

役員貸付金は、意図して作るものではありません。会社の口座から個人の支払いを立て替えた、経費として認められなかった支出が振り替わった、そうした積み重ねで気がつくと数百万円、数千万円になっている。よくある話です。

そして「融資のときに嫌がられる」とも、よく言われます。ただ、それだけなら交渉の余地があります。この記事で見たいのは、そこではありません。制度の要件が「あるかないか」で書かれているため、金額の多寡と関係なく申込みの入口で止まる、という構造のほうです。

令和八年から、利率が上がっている

まず税務の側から。会社が役員にお金を貸して利息を取らないと、通常取得すべき利息との差額が給与として課税されます。

適正な利率の決め方は二段階です。会社が他から借り入れて貸し付けたことが明らかな場合はその借入金の利率、それ以外の場合は貸付けを行った年に応じた利率を使います。

貸付けを行った年と利率
平成30〜令和2年1.6%
令和3年1.0%
令和4〜令和7年0.9%
令和8年1.3%
令和8年の利率は、租税特別措置法93条2項の利子税特例基準割合(平均貸付割合+年0.5%)によります。令和7年11月28日の財務省告示第305号で令和8年の平均貸付割合が年0.8%と定められたため、0.8%+0.5%=1.3%となります。

4年ぶりの引上げで、0.9%から1.3%。率にしておよそ1.44倍です。役員貸付金が1,000万円あれば、利息相当額は年9万円から年13万円に増える計算になります。

ポイント:2026年8月時点で、国税庁のタックスアンサーや「源泉徴収のあらまし」の利率表には、まだ令和7年(0.9%)までしか載っていません。法令と告示から導かれる値と、一般向けの解説ページに時間差があります。

なお、課税されない例外も定められています。災害や疾病等により臨時的に多額の生活資金を要することとなった場合、会社の借入金の平均調達金利など合理的と認められる利率で利息を取っている場合、そしてその年またはその事業年度における経済的利益の合計額が5,000円以下の場合です。

放棄すると、損金にならないうえに源泉徴収が要る

「もう返せないので、会社が放棄すればいいのでは」という相談があります。ここは構造を正確に押さえる必要があります。

法人税法34条4項は、こう定めています。

「前三項に規定する給与には、債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むものとする。」(法人税法34条4項)

つまり債権放棄は、役員に対する給与として扱われます。そして34条1項の網がそのままかかります。定期同額給与は「毎月おおむね一定」であることが要件ですが、債権放棄は一回限りの一括供与なので該当しません。事前確定届出給与の届出もありません。結果として、全額が損金不算入になります。

それだけではありません。給与である以上、所得税法183条1項により源泉徴収の義務が生じます。「その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない」。

ポイント:現金は1円も動いていないのに、翌月10日までに源泉所得税を納める義務が発生します。しかも会社側では損金にならない。放棄は、いちばん高くつく片づけ方になり得ます。

要件は「多いか少ないか」ではなく「あるかないか」

ここからが本題です。近年つくられた経営者保証を外す制度は、役員貸付金についてゼロ要件を置いています。

令和6年3月15日に始まった事業者選択型経営者保証非提供制度の要件は、次のとおりです。

事業者選択型経営者保証非提供制度の要件
要件1過去2年間において、決算書等を申込金融機関の求めに応じて提出していること。
要件2直近の決算において代表者への貸付金等がなく、かつ、代表者への役員報酬、賞与、配当等が社会通念上相当と認められる額を超えていないこと。
要件3直近の決算において債務超過でないこと。または直近2期の決算で減価償却前経常利益が連続して赤字でないこと。
保証料率の上乗せは、要件3の両方を満たす場合が0.25%、いずれか一方のみまたは設立後2事業年度未了の場合が0.45%です。

要件2は「貸付金等がなく」です。金額の水準ではなく、有無で書かれています。1万円でもあれば、満たしません。

ほかの制度も見ておきます。

役員貸付金が引っかかる主な制度
事業承継特別保証財務要件の一つが「法人・個人の分離がなされていること」。承継のときに前経営者の保証を外す有力な制度です。
プロパー融資借換特別保証資格要件に同じく「法人・個人の分離がなされていること」が入っています。
公庫の免除特例日本政策金融公庫の経営者保証免除特例制度は「事業上の必要が認められない法人から経営者への貸付金等がないこと」。
ガイドライン経営者保証に関するガイドライン第4項(2)イ「法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されている」、ロ「法人と経営者の間の資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えない」。
信用保証協会の制度が「貸付金等がなく」というゼロ要件なのに対し、公庫は「事業上の必要が認められない」ものがないこと、という限定つきの書き方になっています。同じ経営者保証の免除でも、要件の作りが違います。

勘定科目を変えても、逃げられない

「役員貸付金という名前が悪いなら、別の科目にすれば」という発想が出ることがあります。ここについては、金融庁が公表している事例集に答えが書かれています。

金融庁の参考事例集に挙げられている例
事例15法人と旧経営者の間で貸借対照表上に多額の役員貸付金が計上されており、その返済計画は未策定であった。
事例4経営者への立替金勘定が存在し、法人と経営者の資産・経理の明確な区分・分離について課題が残っていた。
事例14現経営者から長期預り金が毎期計上されており、明確な分離ができているとは言えない。
金融庁「『経営者保証に関するガイドライン』の活用に係る参考事例集」に掲載されている事例です。科目名が違っても、同じ「法人と個人の分離」の問題として扱われています。

見られているのは科目名ではなく、法人と個人のあいだでお金が行き来しているという事実です。名前を変えても、分離ができていないことは変わりません。

むしろ、事例15が指摘しているのは「返済計画は未策定であった」という点です。金額があること自体より、減らす計画があるかどうかが問われているとも読めます。

社長が亡くなっても、消えない

役員貸付金は、社長が亡くなっても消えません。民法896条は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定めています。会社から見れば、相続人に対する債権として残ります。

逆向きも見ておきます。社長が会社に貸している役員借入金は、社長の側から見れば貸付金債権なので、相続財産になります。評価は財産評価基本通達204により「元本の価額と既経過利息の額との合計額」。額面です。

減額できる場合を定めた通達205もありますが、その事由は限定されています。会社更生手続開始の決定、再生手続開始の決定、整理開始命令、特別清算の開始命令、破産手続開始の決定、業務を廃止し6か月以上休業しているなど。「実質的に返ってこない」だけでは足りません

そして事業承継の場面では、これがさらに効いてきます。事業承継時に焦点を当てたガイドラインの特則は、前経営者と後継者の双方から保証を取る二重徴求を原則禁止としていますが、その例外の一つがこれです。

「法人から前経営者に対する多額の貸付金等の債権が残存しており、当該債権が返済されない場合に法人の債務返済能力を著しく毀損するなど」(事業承継時に焦点を当てた特則より)

役員貸付金が残っていると、承継のときに前経営者と後継者の両方から保証を取ることが、制度の上で正当化されてしまうということです。

減らすときの順番

1

まず、増え方を止める

残高そのものより、毎期増え続けているかどうかが見られます。何が振り替わって増えているのかを特定して、そこを止めるのが最初です。金融庁の事例集も「返済計画は未策定であった」という書き方をしています。

2

役員報酬を見直す

報酬を増やして返済に充てる方法がありますが、定期同額給与の改定ができるのは会計期間開始の日から3か月を経過する日までです。業績悪化を理由とする改定は減額に限られるため、この窓を逃すと一年動かせません。増額分にかかる所得税・住民税・社会保険料も含めて計算しておきます。

3

返済計画を書面にする

すぐにゼロにできない場合でも、何年かけていくらずつ減らすかを書面にしておきます。要件がゼロで書かれている制度は使えませんが、通常の融資の場面では、計画があるかないかで説明の重さが変わります。

4

放棄と退職金は、必ず先に相談する

債権放棄は損金不算入と源泉徴収がセットで来ます。役員退職金と相殺する方法は、法人税法34条2項と施行令70条2号の「不相当に高額な部分」の判定を受けるため、業務に従事した期間や同種同規模の法人の支給状況などから見られます。いずれも実行前に顧問税理士へ。

まとめ

役員貸付金は、決算書の見た目の問題として語られがちです。ただ実際には、制度の申込書の一行目で効いてきます。いま何がその一行に引っかかっているのかを確かめておくと、次に何から手をつけるかが決まります。

編集後記

本文にも記載のある通り、税務上や経営者保証の観点も非常に重要ではあります。
融資審査においても大きく影響を及ぼす勘定科目の一つとなります。事業資金として融資したものが代表者個人に流れてしまう可能性があること。現在の融資審査において資金使途は重要視されるポイントとなります。昔はとりあえず運転資金での融資といったことがよくありましたが、現在は運転資金だとしても詳細な使途を稟議に落とし込まないと財務状況が良好でも融資は受けにくくなっております。
また、会計の仕分けで顧問税理士との打合せがしっかりとできていないと、不透明な資金の動きがあった際には安易に代表者貸付金として計上されてしまっていることがあります。
決算書の勘定科目までしっかりと精査し、貸付金の勘定科目がないかしっかりと確認が必要です。
代表者貸付が発生していると、金融機関や保証協会等からの印象も非常に悪く、経営の安定性を考えた際にはきれいにしておきたい項目となっております。

— 編集部
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※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の税務判断を行うものではありません。利率・制度の要件は改正されることがあり、国税庁の一般向け解説ページへの反映には時間差が生じる場合があります。実際のご判断は、顧問税理士にご確認ください。
【参考】国税庁 タックスアンサー No.2606・No.5202・No.4126・No.9205/国税庁 所得税基本通達36-28・36-49/国税庁 財産評価基本通達204・205/財務省告示第305号(令和7年11月28日)/e-Gov法令検索「租税特別措置法」第93条/「法人税法」第34条/「法人税法施行令」第69条・第70条/「所得税法」第183条/「民法」第896条/中小企業庁「保証料率の上乗せにより経営者保証を提供しないことを選択できる信用保証制度等を開始します」(令和6年3月15日)/日本政策金融公庫「経営者保証免除特例制度」/経営者保証に関するガイドライン研究会「経営者保証に関するガイドライン」および「事業承継時に焦点を当てた特則」/金融庁「『経営者保証に関するガイドライン』の活用に係る参考事例集」