売上を少し先に立てておく。在庫を多めに残しておく。経費を来期に回す。「今期だけ」のつもりで始めた処理が、翌期も、その翌期も続いてしまう。融資の現場で、ときどき出会う場面です。
この記事は、そうした処理をどう隠すかという話ではありません。逆です。どこで気づかれるのか、気づかれたら何が起きるのか、そして戻すにはどうするのかを整理します。すでに始めてしまっている場合ほど、早い段階のほうが選べる手が残っているためです。
はじめに、はっきりさせておきます。事実と異なる決算書を金融機関に提出することは、契約上の問題にとどまらず、法的な責任を問われうる行為です。当メディアは、これをすすめる立場を一切取りません。
そのうえで、実際に起きていることを書くのは、「どうせ分からない」という思い込みが、状況をいちばん悪くするからです。分かる仕組みがあることを知っていれば、始める前に止まれます。すでに始めている場合も、早く動く判断ができます。
金融機関は、決算書を単体で眺めているわけではありません。複数の資料を横に並べて、整合していない箇所を探しています。よく突き合わされているのは、次のようなところです。
| 決算書と申告書 | 税務署に提出した申告書の別表や勘定科目内訳明細書と、決算書の数字が合っているか。内訳明細書は、実は情報量の多い書類です |
| 売掛金と入金 | 売掛金の残高が増えているのに、通帳への入金が伴っていない。回転期間が年々長くなっている |
| 在庫と仕入 | 在庫が積み上がっているのに、仕入や外注費の動きが説明できない。粗利率が業界の水準や自社の過去と離れている |
| 利益と現金 | 利益は出ているのに、現金が増えていない。この状態が何期も続いている |
| 期をまたぐ動き | 期末に大きな売上が立ち、翌期の初めに同じ規模の返品や値引きが出ている |
| 他行との整合 | 複数の金融機関に出した資料の内容が、微妙に食い違っている |
とくに「利益は出ているのに現金が増えない」という状態は、目に留まりやすい形です。利益が本物であれば、時間差はあってもいずれ現金に変わります。それが何期も起きないなら、どこかに現金にならない資産が滞留していることになります。売掛金か、在庫か、その他の資産か。見る側は、そこを順に確かめます。
最初の一回は、たいてい小さな額です。問題は、その次の期に起きます。
先に立てた売上は、翌期には立ちません。同じ利益水準を保とうとすれば、前年より大きく動かす必要が出てきます。
翌期にやめると、利益が大きく落ち込みます。実態は変わっていないのに、数字だけが急に悪化する。この落差の説明が難しく、やめる判断がさらに遠のきます。
数字を動かしても、現金は入ってきません。それどころか、利益が出ている形にしたぶん、納税や社会保険の負担が生じ、資金繰りは実際には苦しくなります。
経理の担当者、顧問の専門家、家族。関わる人が増えるほど、続けること自体の負担が重くなります。
三つ目は、あまり語られませんが決定的な点です。数字を良く見せる処理は、資金繰りを改善しないどころか悪化させます。目的が資金繰りだったはずなのに、手段が目的を裏切る構造になっています。
実際に問題になったとき、何が起きるのか。契約や個別の事情によりますが、一般的には次のような方向が考えられます。
最後の点が、実務的にはいちばん重いところです。赤字の会社にも、金融機関は向き合います。しかし資料が信用できない会社とは、そもそも話ができません。判断の材料そのものが失われるためです。
すでに始めてしまっている場合、どうするか。一気に元に戻すのは、多くの場合、現実的ではありません。ただ、進める順番はあります。
提出用ではなく、自社が把握するための数字です。売掛金のうち実際に回収できるもの、在庫のうち本当に売れるもの。ここを直視しないと、どこから手をつけるかも決まりません。
顧問税理士や弁護士に、隠さずに状況を伝えます。ここで事実を伏せると、助言そのものが役に立たなくなります。話しにくい相手であれば、別の専門家に相談する選択肢もあります。
次の期に同じことを繰り返さない。これが最初の一歩です。戻すより先に、止めることです。
滞留している資産の処理を、複数期に分けて進める方法があります。損失をいつ、どの程度計上するのか。専門家と設計したうえで進める領域です。
いつ、誰に、どこまで伝えるのか。突然の告白が最善とは限りません。立て直しの見通しとあわせて話せる形を作るほうが、現実には進みます。ここは必ず専門家の助言を得てください。
数字が悪い時期は、どの会社にもあります。悪い数字を持って相談に行くことは、決してみっともないことではありません。むしろ、そこから立て直した会社を、金融機関は何度も見ています。いちばん失ってはいけないのは、資料の信用です。
粉飾の多くは架空売上の計上による売掛金の増加、架空在庫の計上が最も多いパターンです。
その他には建設仮勘定やソフトウェア仮勘定などを計上し本来費用になるものを飛ばして黒字で着地させている企業を見たことがあります。
金融機関は損益計算書と同じもしくはそれ以上に貸借対照表をよく見て評価しています。売掛金のサイトが長期化していたり、業界平均と大きく乖離した在庫は不良資産として見られるため、粉飾したところで実態は何も変わりません。
一度でも粉飾のような事象があると今後融資は一切できなくなるため、自社にとってはリスクの方が大きいです。
しっかりと今の経営状況と向き合っていくことが大切です。
企業経財は、中小企業の財務を中心に、資金繰り・資金調達・事業承継など、経営者が今日から使える実務情報をお届けする専門メディアです。「煽らない・脅さない」を編集方針とし、資金繰りの健全化に役立つ情報の発信を続けています。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、決算数値の不適切な処理を推奨するものではありません。虚偽の内容による融資の申込みは、契約の解除や一括返済の請求のほか、法的な責任を問われる可能性があります。実際の対応にあたっては、顧問税理士、弁護士、取引金融機関など、専門家に必ずご相談ください。