「来月末の支払いに、現金が足りないかもしれない」。そう気づいた夜に、まず頭に浮かぶのは資金の集め方です。けれども、その前にやっておくほうが効くことがあります。支払先ごとに「待ってもらえる幅」がまるで違うという事実を、先に整理しておくことです。
同じ100万円の支払いでも、1日遅れただけで法律の問題になるものと、正式な窓口で1年単位の分割を相談できるものが混ざっています。そこを分けないまま一律に「全部払わなければ」と考えると、いちばん相談しやすい相手に無理をして払い、いちばん融通のきかない相手を落とす、という逆の結果になりがちです。
最初にやることは、借入先を探すことでも、慌てて振り込むことでもありません。これから4週間の入金予定と支払予定を、日付順に並べることです。
月単位ではなく、日単位で並べるのがポイントです。月末残高で見ると足りているのに、月の途中でいったんマイナスになる、という形はよくあります。逆に、月末で見ると足りないのに、実は入金が3日早ければ回る、ということもあります。
| 日付 | 予定が動く日を、実際の営業日で |
| 入る | 売掛の入金予定。相手先ごとに分けて書く |
| 出る | 給与、仕入、外注、税金、社保、返済、家賃など |
| 残高 | その日の終わりに口座にいくら残るか |
「なんとなく足りない」が「8月28日に、およそ180万円足りない」に変わるだけで、打てる手はずいぶん具体的になります。相談に行く相手も、その日付と金額を見て初めて動けるようになります。
優先順位というと、つい「どれがいちばん大事か」で考えてしまいます。しかし、この場面で役に立つのは別の軸です。遅れたときに何が起きるか、そして、正式に待ってもらう手続きが用意されているか。この二つで並べ替えます。
| 給与 | 遅れると法令上の問題が生じうる。待ってもらう制度は用意されていない |
| 仕入・外注 | 供給が止まると事業が続かない。相手との個別の相談しかない |
| 税金 | 延滞税や差押えの対象になりうる。一方で、猶予の申請制度がある |
| 社会保険料 | 延滞金や差押えの対象になりうる。一方で、猶予の相談窓口がある |
| 借入の返済 | 取引評価に影響しうる。返済条件を変更する相談の形が整っている |
この表で言いたいのは、相談の窓口が用意されていないものから先に払うということです。正式な手続きが整っている相手ほど、後ろに回せる余地があります。逆に、制度としての受け皿がない相手を落とすと、そこから先の回復が難しくなります。
給与の支払いには、労働基準法で決められた原則があります。全額を払うこと、毎月1回以上、決まった期日に払うこと。分割にしたり、翌月にまわしたりすることは、たとえ本人が承知していても、原則としては認められない扱いになります。
つまり給与は、「優先度が高い支払い」というより、そもそも遅らせるという選択肢を置きにくい支払いです。ここが仕入や返済との決定的な違いになります。
あわせて確保したいのが、止まると営業ができなくなる仕入・外注です。すべての取引先が同じ重さではありません。代わりのきかない相手が2社か3社はあるはずで、そこだけは先に押さえます。
ここが、いちばん知られていないわりに効く部分です。国税には「換価の猶予」という申請制度があります。一時に納めることで事業の継続が難しくなるおそれがある場合に、分割での納付を認めてもらう手続きです。
| 申請の期限 | 納期限から6か月以内 |
| 猶予の期間 | 原則1年以内。やむを得ない事情があれば延長され、通算で最長2年 |
| 納め方 | 猶予期間中、各月に分割して納付 |
| 延滞税 | 猶予が認められた期間について軽減される |
| 担保 | 猶予を受ける金額が100万円以下、または期間が3か月以内などの場合は不要 |
注目したいのは「納期限から6か月以内」という部分です。放置して1年経ってから相談に行くのと、期限の直後に動くのとでは、使える制度そのものが変わってしまいます。滞納しているという後ろめたさから連絡を先延ばしにするほど、選べる手が減っていく構造になっています。
社会保険料についても、年金事務所に同種の猶予の相談窓口があります。こちらも、黙って引き落としが落ちなかった状態が続くのと、こちらから出向いて事情と見通しを説明するのとでは、その後の扱いがまったく違ってきます。
もうひとつ、性質として押さえておきたいのが源泉所得税と消費税です。これらは会社の儲けから払うお金というより、いったん預かっているお金です。手元にある現金のうち、この二つに相当する分は最初から自分のものではない、という感覚を持っておくと、月中の判断がぶれにくくなります。
借入の返済には、返済条件を変更してもらう相談(いわゆるリスケジュール)という、はっきりした手続きがあります。元金の返済を一定期間止めて利息だけにする、返済額を減らす、といった形です。
この相談で必ず求められるのが、いつまでに、どうやって元に戻すのかという見通しです。ここを自力で組み立てるのが難しい場合、公的な支援の枠組みが用意されています。
各都道府県に設置されている公的な窓口です。1年から3年の収益力改善計画づくりを一緒に進めてくれます。計画策定にかかる費用は原則として無料とされています。
認定経営革新等支援機関の支援を受けて計画を作る場合に、費用の一部が補助される制度です。計画策定支援は補助率3分の2・上限50万円、その後の伴走支援は補助率3分の2・上限30万円という枠組みになっています。資金繰り表の作成も計画の要素に含まれます。
いずれも、追いつめられてから駆け込む場所というより、まだ返済ができているうちに使っておくほうが選択肢が広く取れる制度です。
待ってもらう相談は、期日を過ぎてからよりも、期日の前に自分から切り出すほうが受け入れられやすくなります。理由は単純で、相手の側にも社内手続きがあるからです。
連絡するときは、「払えません」だけでなく、いつなら、いくら払えるのかまで添えます。日付と金額が入っているだけで、相手は社内で説明ができるようになります。第1章で作った1枚が、そのまま材料になります。
資金ショートの相談で、金額の大きさそのものが致命傷になることは、実はそれほど多くありません。効いてくるのは、たいてい順番と、連絡をしたかどうかのほうです。
ショートしそうだという相談で、金額の大きさそのものが致命傷になることは、実はそれほど多くありません。
大事なのは遅れてしまう先に対しての誠意ある対応です。
相手は金額よりも、一報がなかったことを覚えてます。逆に、期日前に「◯日まで待ってほしい」と一本入れられた会社は、その後も取引が続いていることが多ですし、取引先によっては取引条件(支払いサイトや入金サイト)の見直しを行ってくれる先もあります。
第一にいつ、いくら足りないのかを把握し、取引先にしっかりとした対応を行うことです。
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※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の対応や、猶予・相談が認められることを保証・推奨するものではありません。猶予制度の要件や手続きは法令改正により変わることがあり、実際の可否は個別の状況によって異なります。ご自身の案件については、所轄の税務署・年金事務所・取引金融機関および専門家にご確認ください。