「これ以上借りると、次の融資が受けにくくなる」。財務を気にしている経営者ほど、この壁にぶつかります。そこで名前が挙がるのが資本性劣後ローンです。契約上は借入なのに、金融機関の審査では自己資本とみなされる——そう説明されることが多い資金です。
ただ、「みなされる」には根拠があり、要件があります。そしてその効果は、時間が経つと減っていきます。ここを知らずに期間を選ぶと、目的の半分しか達成できません。この記事では、根拠となる条文と実際の数字で整理します。
劣後とは、返してもらう順番が後ろになるという意味です。会社が法的に破綻したとき、債権の弁済には順番があります。その並びのなかで、通常の借入よりも後ろに置かれるのが劣後ローンです。
貸す側から見れば、回収できない可能性が高い立場を引き受けることになります。だからこそ、通常の融資とは条件の付き方がまるで違います。期間が長く、期中は元本を返さず、金利は業績で動く。どれも、株式に近い性質を借入の形で再現するための設計です。
この記事で扱うのは、日本政策金融公庫の制度です。正式名称は「挑戦支援資本強化特別貸付」といいます。「資本性ローン」という通称のほうが知られていますが、窓口で制度名を確認するときはこの正式名称が使われます。
なぜ借入が自己資本とみなされるのか。その根拠は、金融庁の「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」II-4-1の注記にあります。資本性借入金として扱うための要件が、三つ示されています。
契約期間が5年を超え、かつ期限一括償還であること。期中に元本を返していく形では、資本とはみなされません。
業績連動型であること。業績がよければ高く、悪ければ低くなる設計です。配当に近い性質を持たせるための条件です。
法的破綻時に、他のすべての債権に劣後すること。返済順位が後ろであることが、契約で担保されている必要があります。
ここが重要な点です。自己資本とみなす判断をしているのは、貸し手である公庫ではなく、決算書を見る側の金融機関です。監督指針が示しているのは、金融機関が債務者区分を判断する際の考え方です。
公庫の資本性ローンは、中小企業事業と国民生活事業で枠が分かれています。
| 融資限度額 | 中小企業事業は15億円(別枠)。国民生活事業は7,200万円(別枠)。既存の借入枠とは別に扱われます。 |
| 返済期間 | 5年1ヵ月、または6年以上20年以内。期中の元本返済はなく、期限に一括で償還します。 |
| 担保・保証 | 無担保・無保証人。経営者個人の保証も不要です。 |
| 特約 | 四半期ごとに経営状況を報告することが条件になります。決算期末だけでなく、期中も数字を出し続ける必要があります。 |
実務上、いちばん効いてくるのが期中に元本を返さないという点です。毎月の返済が利息だけになるため、成果が出るまでの数年を、返済負担の軽い状態で走れます。設備投資や新規事業のように、売上に効いてくるまで時間がかかる場面と相性がよいのはこのためです。
裏返せば、期限には一括でまとまった額を返すことになります。20年借りたなら20年目に全額です。借りる時点で、そのときどう返すのか——借換えなのか、内部留保なのか——の見通しを併せて持っておく必要があります。
業績連動型という条件が、実際にどういう数字になるのか。中小企業事業では、直近決算の税引後当期純利益を基準に、おおむね次のように分かれます。
| 税引後利益 0円以上 | 3.25〜3.95% |
| 税引後利益 0円未満 | 一律 0.50% |
| 三要件充足時の当初3年 | 0.50% |
黒字のときの3.25〜3.95%という水準は、通常のプロパー融資と比べれば明らかに高い部類です。うまくいったときの利息負担が重くなる——これが、自己資本とみなしてもらうことの対価です。
一方、赤字のときは一律0.50%まで下がります。苦しい時期には利息もほとんど効いてこない。この非対称さが、株式の配当に近い性質にあたる部分です。
また、民間金融機関による支援が確認できるなどの三つの要件を満たす場合には、当初3年間は業績にかかわらず0.50%という取扱いもあります。取引金融機関と足並みを揃えて動けるかどうかで、初期のコストがかなり変わるということです。
ここが、この制度でもっとも見落とされる点です。資本とみなされる金額は、残存期間に応じて減っていきます。
| 残存期間 5年以上 | 100% |
| 残存期間 4年以上5年未満 | 80% |
| 残存期間 3年以上4年未満 | 60% |
| 残存期間 2年以上3年未満 | 40% |
| 残存期間 1年以上2年未満 | 20% |
この表を、期間の選択に当てはめてみます。5年1ヵ月で借りた場合、資本として100%扱われるのは最初の1ヵ月だけです。2ヵ月目には残存期間が5年を切り、そこから毎年2割ずつ削られていきます。
一方、10年で借りれば、最初の5年間は100%のまま。自己資本比率を厚く見せたい期間が5年あるということです。「短いほうが返しやすそう」という感覚で期間を選ぶと、資本としての効果をほとんど受け取れないまま利息だけを払うことになりかねません。
逆に言えば、この制度で何年借りるかは、返済のしやすさではなく「いつまで自己資本を厚く見せたいか」から逆算して決めるものです。次の設備投資が5年後なら、そこで100%が効いている期間設定を選ぶ。そういう考え方になります。
制度としての規模感も押さえておきます。公庫の実績では、令和6年度の資本性ローンの利用は、新事業展開を支援する型が63先・129億円、事業再生を支援する型が89先・82億円という水準です。
1件あたりに直せば、新事業型でおよそ2億円、再生型でおよそ9,200万円。件数としては全国で年間150件程度であり、誰もが使える一般的な資金調達手段ではありません。事業計画の中身が正面から問われ、四半期ごとの報告義務も続きます。
なお、コロナ禍で設けられた資本性劣後ローンは、令和7年2月末で新規の受付を終了しています。当時の条件を前提にした情報が今も残っているため、検討する際は必ず現行制度の条件で確認してください。
向く場面と向かない場面を整理すると、こうなります。向くのは、成果が出るまで数年かかる投資と、自己資本の薄さが次の調達の障害になっている場面。向かないのは、今月の支払いを埋めたいときです。審査には事業計画の精査が伴い、時間がかかります。目の前の資金不足に対しては、別の手段を考えることになります。
資本性劣後ローンは、返済順位を後ろに置く代わりに、期中の返済が軽く、審査上は自己資本として扱われうる資金です。ただし返さなくてよいお金ではなく、期限には一括の償還が待っています。何のためにいくら必要で、いつまで自己資本を厚くしておきたいのか。この二つが固まっていれば、相談は具体的に進みます。
資本性ローンの相談で、いちばん多く直した点が「期間」です。
5年1ヵ月という設定が制度上あるので、それを見て「いちばん短いのでお願いします」となりやすい。ところが資本として100%扱われるのは最初の1ヵ月だけで、あとは毎年2割ずつ落ちていく。自己資本を厚く見せたくて借りたのに、その効果がほとんど残りません。
資本性ローンについても各取引行には説明しなければ自己資本と理解してもらえず、単に借入が増加しているとみられてしまうので注意しましょう。
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※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の資金調達の可否や結果を保証・推奨するものではありません。制度の要件・限度額・利率・期間および審査上の取り扱いは、制度改正や金融機関・時期・個別の状況により異なり、変更される場合があります。記載の利率は執筆時点の公表値です。実際のご検討にあたっては、取扱金融機関の窓口や専門家に最新の情報をご確認ください。
【参考】日本政策金融公庫「挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)」、金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」II-4-1