「ファクタリングを使ったことは、銀行に伝わるのでしょうか」。この質問を受けることがあります。
答えは、使い方によって変わります。そして意外なことに、制度の側は売掛金の売却について、手形の割引ほどには記録を求めていません。それでも銀行が見ている場所は別にあり、しかも二〇二六年から、その場所が変わりつつあります。この記事では良し悪しの評価ではなく、どこに何が出るのかだけを追いかけます。
中小企業の会計に関する基本要領(中小会計要領)は、金銭債権についてこう定めています。「金銭債権は、原則として、取得価額で計上する」。そして注記については「受取手形割引額及び受取手形裏書譲渡額は、貸借対照表の注記とする」。
個別注記表の様式(全19項目)にも、記載されているのは「受取手形割引額」と「受取手形裏書譲渡額」です。売掛金の譲渡額に相当する注記の項目は、存在しません。
中小企業の会計に関する指針のほうを見ると、「手形の割引又は裏書及び金融機関等による金銭債権の買取りは、金銭債権の譲渡に該当する。したがって、手形割引時に、手形譲渡損が計上される」とあります。債権の買取りが譲渡にあたることは明記されているのに、示されている勘定科目は「手形譲渡損」だけです。
では、まったく出ないのか。そうではありません。
企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」は、金融資産の消滅を認識したときに「帳簿価額とその対価としての受払額との差額を当期の損益として処理する」(第11項)と定めています。ただし、この基準は勘定科目名も損益計算書上の表示区分も指定していません。
| 貸借対照表 | 譲渡が消滅認識の要件を満たせば、売掛金が減り、その分の現金預金が増えます。総資産や自己資本比率はほぼ動きませんが、売上債権の残高だけが小さくなります。 |
| 損益計算書 | 帳簿価額と受取額の差額が当期の損益として処理されます。科目名と表示区分は基準上指定されていません。 |
| 注記 | 中小企業の計算書類に、売掛債権の売却に固有の注記項目は確認できません。 |
| キャッシュ・フロー | 会社法上の計算書類は貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表の4点で、キャッシュ・フロー計算書は含まれません。中小会計要領にも記述がありません。 |
もうひとつ、会計の側から見た重要な点があります。同基準第9項は、消滅を認識するための要件として次の三つを挙げています。①譲受人の契約上の権利が譲渡人およびその債権者から法的に保全されていること、②譲受人が権利を通常の方法で享受できること、③譲渡人が買い戻す権利および義務を実質的に有していないこと。
三つ目に注目してください。金融庁が「ファクタリングの利用に関する注意喚起」で挙げている危険な徴表は「売主が債権を買い戻す必要がある」「回収できない場合に売主が支払う義務がある」です。金融庁が「これは貸付けだ」と言う契約は、会計の側でもそもそも売却として処理できないという関係になっています。
一つ目の「法的に保全」についても、実務指針は第三者対抗要件を満たす場合に法的に保全されているものとして取り扱う旨を定めています。通知も承諾も登記もない形の取引では、この要件の充足自体が論点になり得ます。
債権譲渡登記について、法務省の説明を正確に押さえておきます。
まず仕組みです。登記により「民法第467条の規定による確定日付のある証書による通知があったものとみなされ」ますが、登記だけでは債務者に対抗できません。債務者に対抗するには、登記事項証明書を交付して通知するか、債務者が承諾する必要があります。登記できるのは譲渡人が法人で、金銭債権の譲渡である場合。登記所は東京法務局民事行政部債権登録課が全国分を一元管理しています。
そして、証明書は三種類あり、誰が請求できるかが分かれています。
| 概要記録事項証明書 | 誰でも請求できます。譲渡人ごとに作成され、債権総額等が載ります。個別の債権を特定する情報は載りません。 |
| 登記事項概要証明書 | 誰でも請求できます。登記番号ごとに作成され、登記原因・日付・存続期間・債権総額が載ります。 |
| 登記事項証明書 | 当事者や利害関係人等に限られます。原債権者、債務者、債権の種類・発生原因・金額などの詳細が載ります。 |
整理すると、こうなります。銀行は法務局に行かなくても、オンラインでその会社に債権譲渡登記があるかどうかは確認できます。ただし「どの売掛先のどの債権を譲渡したのか」までは、当事者や利害関係人でなければ取れません。
では、銀行は何を見ているのか。金融庁のディスカッション・ペーパー「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」に、直接的な記述があります。
同ペーパーの別の箇所では「資金使途や返済財源に着目し、将来のキャッシュフローを重視した融資」という表現も使われています。
ここで出てくる「正常運転資金」について、金融庁は算式を明示しています。
この算式に売掛金の売却を当てはめると、売上債権が減るため、正常運転資金の計算値は機械的に小さくなります。つまり「短期継続融資で手当てすべき運転資金の枠」の算定額が縮む、という関係になります。
ただし、金融庁自身が「一時点の貸借対照表だけでなく、期中のフローも見よ」と言っている点は押さえておくべきです。見られているのは、期末の残高というより、期中にどう資金が回っていたかのほうです。
参考までに規模感も置いておきます。財務省の法人企業統計調査(令和8年1-3月期、金融業・保険業を除く全産業)では、受取手形・売掛金が約253.96兆円、支払手形・買掛金が約168.96兆円、棚卸資産が約163.68兆円です。
そしてここが、この記事でいちばん新しい部分です。
令和8年3月2日に中小企業庁が公表したモニタリング強化型特別保証制度は、認定経営革新等支援機関との連携により「月次で財務状況や資金繰り状況等を把握し、経営状況等の報告を行うことを誓約する中小企業者」を対象としています。取扱期間は令和8年3月16日から令和11年3月31日まで。
月次管理は対象となる月の翌月末まで、年次の報告は決算期4月から9月の会社が12月中、10月から3月の会社が6月中。加えて、今後6か月以内に資金不足の懸念が生じたときの随時報告も求められます。
もうひとつ、取引の側にも変化があります。2026年1月1日に施行された中小受託取引適正化法(取適法)により、対象取引で手形払いが禁止され、支払期日までに代金相当額の満額を得ることが困難な支払手段も禁止されました。電子記録債権も、満期日が支払期日より後で割引を受ける必要が生じる場合は認められません。支払期日は受領日から起算して60日以内です。
取適法の対象となる取引では、そもそも「入金が先すぎて資金化したい」という構造的なニーズが縮む建て付けになっています。裏を返せば、ニーズは対象外の取引に偏ることになります。
売掛債権を早く現金にしたいという需要そのものに対しては、公的な制度も用意されています。
| ABL保証 | 流動資産担保融資保証制度。売掛債権や棚卸資産を担保に借り入れる際の保証で、限度額2億円、保証割合80%、保証料率年0.68%、保証人不要。売掛先が事業者である場合の売掛金、運送料、診療報酬、工事請負代金等が対象です。 |
| でんさい | 電子記録債権。必要な金額だけ分割して譲渡できる点が手形にない機能です。印紙税は非課税、取立手数料・郵送料は不要、支払期日当日から資金を使えます。 |
| 公庫の貸付 | 経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)。対象要件に「取引条件が回収長期化または支払短縮化により0.1か月以上悪化した方」が入っています。限度額7,200万円、据置3年以内。 |
でんさいの使われ方も、数字で見ておきます。2026年6月の統計では、発生記録請求が50,697件・8,524億円に対し、譲渡記録請求が132,722件・1兆6,668億円。件数で約2.6倍です。分割して譲渡できるため、1本が繰り返し使われています。しかも発生記録請求の件数の79%、金額の61%が中小企業・個人事業主によるものです。
その裏側で、手形は急速に縮んでいます。日本銀行の決済動向によれば、2026年1月の手形交換は1営業日平均で交換枚数が前年比▲54.7%、交換金額が▲57.2%でした。
なお、電子記録債権には指名債権の譲渡にはない保護があります。法務省の説明によれば、記録原簿上の債権者から譲渡記録を受けて取得した者は、譲渡人が無権利者であっても悪意または重大な過失がない限り債権を取得でき(善意取得)、債務者は害意がある場合を除き、譲渡人との間の原因債権の無効・解除などを譲受人に対抗できません(人的抗弁の切断)。
ファクタリングを使ったかどうか自体を、銀行が咎めるという話ではありません。見られているのは、その資金がどこから来てどこへ行ったか、そしてそのやり方を続けられるのかのほうです。聞かれる前に、資金繰り表で説明できる形にしておく。それがいちばん静かな備え方です。
ファクタリングを利用しているから融資ができないということはあまり聞いたことがありません。
ただし、ファクタリングはコストが高く、資金繰りに大きな影響を与えることから審査の目線は厳しくなります。
気を付けることとしては債権譲渡登記があるかと決算書への載り方です。
ファクタリングについて借入と認識している士業の方も多く、決算書の借入項目に計上されていることがよく見られます。
本来債権の売却なので借入にはならず売掛金と現預金項目に動きがあるのと、PLの損金項目となります。
ここを間違えると決算書の内容が悪くなり、今後の資金調達等に悪影響を及ぼすリスクが発生してきます。
ファクタリング自体は資金繰りの助けになるものではありますが、適正な額をスポットで利用していく方向性が好ましいでしょう。
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※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の資金調達手段を推奨または否定するものではありません。会計処理・制度の内容は改正されることがあります。実際のご判断は、顧問税理士・公認会計士、取引金融機関にご確認ください。
【参考】企業会計基準委員会「企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準」第8項・第9項・第11項/同「中小企業の会計に関する指針」/同 実務対応報告第27号/中小企業庁ほか「中小企業の会計に関する基本要領」/法務省「債権譲渡登記制度の概要」および同Q&A/法務省「電子記録債権法の概要」/金融庁「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」(令和元年12月)/金融庁「アクセスFSA 第140号」/金融庁「ファクタリングの利用に関する注意喚起」「給与の買取りをうたった違法なヤミ金融にご注意ください!」/中小企業庁「モニタリング強化型特別保証制度」(令和8年3月2日)/公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト」/中小企業庁「在庫や売掛債権を担保とする融資・保証について」/全銀電子債権ネットワーク「統計情報」「でんさい活用ガイドブック」/日本銀行「決済動向」(2026年6月)/財務省「四半期別法人企業統計調査」(令和8年1-3月期)