「担当の方が代わりまして」という電話が来ると、少し身構えます。これまで積み上げてきた話が、どこまで伝わっているのか分からないからです。
この感覚は、感覚だけの話ではありません。国が毎年、一万社規模で調べていて、数字にも出ています。そして、何が引き継がれて何が引き継がれないのかには、はっきりした線があります。書面になっているかどうかです。
金融庁は毎年、企業に対してアンケート調査を行い、結果を公表しています。令和8年6月30日に公表された最新の調査は、令和8年1月に実施され、10,720社が回答しています。
そのなかに「メインバンクからの説明に納得感が感じられない理由」という設問があります。
| 担当者の交代が多い | 34.0% |
| 事業内容の理解が浅い | 31.1% |
一位です。しかも二位の「自社の事業内容等への理解が浅い」とあわせて読むと、同じことを別の角度から言っているようにも見えます。理解している人がいなくなる、という問題です。
では、銀行の担当者はどのくらいの頻度で代わるのか。「三年に一度くらい」といった話はよく聞きますが、これを測った公的な統計は存在しません。金融庁にも日本銀行にも総務省にも、金融機関の人事異動の周期を示すデータは見当たりません。
一方で、交代が引き起こす影響のほうは、国が数字で持っています。しかも興味深いのは、その影響の受け方に会社によって差があることです。
令和6年6月に公表された調査(10,140社回答)では、金融機関との取引で過去1年以内に感じた問題点として「担当者の退職や交代が多い」を挙げた割合が、次のように分かれました。
| 課題共有先 | 10.5% |
| その他の先 | 22.9% |
差は12.4ポイント。同じように担当者は代わっているはずなのに、困る会社と困らない会社に分かれています。
なぜ差が出るのか。引き継ぎの実際を考えると見えてきます。
| 引き継がれる | 稟議書、決算書、試算表、資金繰り表、事業計画、面談記録、保証契約の説明を記録した書面。組織の文書として残っているものです。 |
| 引き継がれにくい | 口頭で伝えた事業の背景、業界の事情、前の担当者が個人的に理解していたこと。文書になっていない部分です。 |
| だから起きること | 「前の担当者はこう言っていた」が通じない。口頭の合意は稟議に載らないため、組織としては存在しないことになります。 |
ここでひとつ、言葉についての注意を挟んでおきます。「事業性評価をしてもらっている」という言い方をよく聞きますが、金融庁の中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針の本文に「事業性評価」という語は見当たりません。監督指針が使っているのは「事業価値を見極める融資手法(不動産担保や個人保証に過度に依存しない融資)」という表現です。
言葉が違うこと自体は大きな問題ではありません。ただ、こちらが「評価してもらっている」と思っている中身が、相手の組織の中でどういう文書になっているのかは、別の話だということです。
とはいえ、近年は「書面に残る」方向へ制度が動いています。いちばん分かりやすいのが経営者保証です。
令和4年12月23日に金融庁・経済産業省・財務省が公表した経営者保証改革プログラムは、金融機関が経営者等と個人保証契約を締結する場合に、次の二点を個別具体的に説明することを求めました。
そのうえで「その結果等を記録することを求める」とし、さらに「記録した件数を金融庁に報告することを求める」としています。適用は2023年4月から、報告は2023年9月期の実績報告分からです。
実際に運用されています。2024年度は529機関が金融庁に報告し、新規融資件数に占める「経営者保証に依存しない融資」と「有保証融資のうち適切な説明を行い記録した融資」の合計割合は95.0%でした。
さらに令和7年12月19日の監督指針改正で、この説明と記録の対象が拡大しました。新規の保証契約だけでなく、既存の保証契約にも及ぶことになり、M&A・事業承継など主たる株主等が変更になったことを金融機関が把握した保証契約や、令和5年3月以前に締結した根保証契約も明示的に含まれています。
制度の側も、書面のリズムを標準化する方向に進んでいます。
経営者保証に関するガイドラインのQ&A(Q.4-7)は、経営の透明性を確保するために求められるものとして、貸借対照表・損益計算書の提出だけでなく各勘定明細(資産・負債明細、売上原価・販管費明細等)の提出、そして年1回の本決算の報告だけでなく試算表・資金繰り表等の定期的な報告を挙げています。
令和8年3月16日に取扱いが始まったモニタリング強化型特別保証制度では、これがさらに具体的な期日になりました。
| 月次 | 月次管理表による把握を、対象となる月の翌月末までに実施します。 |
| 年次 | 決算期が4月から9月の会社は12月中、10月から3月の会社は6月中に、金融機関へ報告書を提出します。 |
| 随時 | 今後6か月以内に資金不足の懸念があるなど、経営状況に変化があったときに報告します。 |
「決算書を年に一度出せば終わり」から「毎月、書面を出す」へ。制度の側が求めるリズムが、この数年で明らかに細かくなっています。担当者が代わることを前提にするなら、この方向は悪い話ではありません。
なお、担保の面でも新しい選択肢ができました。令和8年5月25日、事業性融資の推進等に関する法律が施行され、企業の総財産を担保にできる企業価値担保権が導入されています。検討段階では別の呼び名が出回っていましたが、法律上の名称はこちらです。
直近の決算書と各勘定明細、直近の試算表、向こう6か月から12か月の資金繰り表。この三点を最初の面談で渡します。前任者に説明した内容を、あらためて文書のかたちで組織に置き直す作業です。
ローカルベンチマークの4つの視点(経営者/事業/企業を取り巻く環境・関係者/内部管理体制)と6つの財務指標(売上増加率、営業利益率、労働生産性、EBITDA有利子負債倍率、営業運転資本回転期間、自己資本比率)に沿って書き出しておくと、共通の言葉で話せます。
いま付いている経営者保証について、どの部分が十分ではないために必要なのか、何を改善すれば外れる可能性が高まるのか。2023年4月からは、これを個別具体的に説明して記録することが求められています。令和7年12月の改正で、既存の保証契約も対象になりました。
金融庁の調査で差が出たのは、面談の頻度でした。課題を共有できている会社は月1回以上、そうでない会社は4割程度。次の面談日をその場で決めてしまうのが、いちばん簡単な対策です。
担当者が代わることは止められません。止められるのは、代わったときに何も残っていないという状態のほうです。決算書と試算表と資金繰り表を、いま誰に渡しているか。そこを確かめておくだけで、次の交代の重さが変わります。
銀行の担当者は数百の担当企業を持っております。実際異動のタイミングでは3日程度しか引継ぎの期間はありません。
その中で全ての企業を完璧に引き継ぐことは不可能です。
担当が代わるタイミングではまとまった時間を確保し、自社の事業概要等をしっかりと説明してあげることが重要です。
今後自社の融資取引は担当者が稟議の作成を行うため、しっかりと理解してもらわないと通るものも通らず苦しい状況に陥る可能性は十分にあるからです。
ビジネスモデル等をまとめた書類を用意しておいてあげる方が良いかもしれません。
大げさかもしれませんが、新規の銀行と取引をすると思って丁寧に説明してあげるのが良いかもしれないですね。
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※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の金融機関の対応や融資の結果を保証するものではありません。制度・指針の内容は改正されることがあります。実際のご判断は、取引金融機関・専門家にご確認ください。
【参考】金融庁「企業アンケート調査の結果」(令和8年6月30日/令和6年6月28日)/金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」(令和8年8月)/金融庁・経済産業省・財務省「経営者保証改革プログラム」(令和4年12月23日)/金融庁 監督指針 新旧対照表(令和4年11月1日/令和7年12月19日)/金融庁「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」(令和元年12月)/金融庁「事業性融資の推進(企業価値担保権等)」/経済産業省「ローカルベンチマーク ガイドブック(企業編)」/中小企業庁 金融課「モニタリング強化型特別保証制度のモニタリングについて」(令和8年3月2日)/経営者保証に関するガイドライン研究会「経営者保証に関するガイドライン」Q&A